クーラの一日
〜後編〜





サラリーマン、主婦、ホスト、暇そうにぶらつく人。

見たことのない世界。

日はとうに落ちているというのに、街には人が溢れんばかりの人数で賑わっていた。

「…すごい人…」

家を出て、街の中心部に来た彼女は、人の多さに目を疑った。

KOFに出て、何か催し物があると人が集まるというのをクーラは学習した。

KOFでは参加者が限られ、良くても40人がいいとこだった。

しかし今はどうだろう。催しという言葉が合うのか合わないのか、そこはわからない。

例え合っていたにしても、この人数は明らかにクーラの知る範囲外であった。

「街って、こんなに人がいたんだ…。」

呆然とその場に佇むクーラ。

立ち止まるクーラを横切っていく人々。

まるで、彼女の存在に気づいていないかの様に通り過ぎていく。

同姓同士肩を並べて話ながら。一人で黙々と。3、4人騒ぎながら。

クーラを横切っていく人は様々だった。

真紅の瞳をパチパチさせ、まるで初めて親に御遣いを頼まれた子供のように歩き始めるクーラ。

「こんな場所で立ってても、しょうがないよね。」

比較的人通りの多い道を歩き始めたクーラ。

道の両側には、色んな催し物(クーラはそう思っている)が開かれている。

林檎やミカンなど、いろんな果物が置いてある家。

魚や見たことのない赤い粒状の物等が置かれている家。

魚は、息をしているものから、もうとうに息絶えているものまで様々だった。

「…かわいそう…。」

息絶えている魚を見て思ったのだろう、つい口走ってしまう。

「お嬢ちゃん、これがかわいそうだって言うのかい?まだまだ子供だねぇ。」

魚屋の親父がニコニコしながらクーラに話しかける。

「確かにお嬢ちゃんの言う通りだ。でもな、こうでもしないとこっちが死んでしまうんだよ。」

大人の世界の話をし始める親父。

しかし、クーラは???といった感じで親父の顔を見つめている。

「…ははははは、お嬢ちゃんにはまだ早いか。」

クーラは魚屋を後にした。

「…人って、なんであんなことするんだろう…。」


商店街を抜け、街灯のない路地に着いたクーラ。

辺りには倉庫が立ち並び、岬には船が1隻明かりを消して止まっている。

灯台は、残りの船の為、そして空を優雅に飛ぶ飛行機という乗り物のために明かりが灯っている。

明かりが空を照らし、朝のような明るさが光のラインに映し出されている。

岸に座り、今日の出来事を振り返る。

水辺には、鏡のように反対に写る自分の姿があった。

「…そういえば、ダイアナ怒ってるかなぁ…。」

ダイアナに断りなく外出している身である以上、彼女の怒りをかうのは当然と言えば当然である。

「やっぱり、ちゃんと言ってから出た方がよかったかなぁ…。」

今頃になって後悔をする少女。

時既に遅しとは、この事をさすのであろう。

「…でもぉ、ダイアナに言ったら絶対許してくれないからぁ、いいのか。」

前言撤回である。彼女は後悔という言葉を知ってはいるが、そこまで深くは考えない性質らしい。

「今日は楽しかった。そろそろか〜えろ♪」

元気を取り戻し、ルンルン気分で歩き出す彼女。

…と、暗闇を歩く彼女だったが、遠くに身の丈180cm以上はあるだろう、三つの黒い影に行く先を阻まれる。

「こ〜んな時間にこんな所でな〜にをしているのっかなぁ?お嬢さん。」

月の光に照らされて映し出された、シルエットだったものは長身の男三人であった。

真ん中の男が特に大きい。

ゆうに180は超えている。おそらく200はあるだろう。

隣の男は真ん中の男に比べ格が低いのか、頭があがらない様子だった。

「お嬢さん、こちらのお方が遊びたいと申しています。ちょ〜っとばかし、付き合っていただけますよね?」

現KOF参加者であるクーラは、こういう危機にはなれている。

そのせいか、第六感がうずいて仕方がない。

(…この人達……。)

殺気に満ちた目。それが目の前に三つ。

(これが、外に出ちゃいけない理由なのかなぁ…。)

ダイアナが以前言っていた言葉を思い出す。

「外の世界は危険がいっぱいあるの。KOFより危険なものがいっぱい。」

そんな事を言っていたような気がする。

しかし、それでも少女には納得できない点があった。

(これが危険なの?)

殺気だった目。しかし、世界各地の強豪を相手にしてきた彼女である。

この程度の気で危険と呼べるのか疑問に思っている。

男達の殺気は、よくてもチンピラといった程度。

どこぞの不良少年が知恵もなく夜をうろつくのがいいところ。

本当の危機を知っている彼女にとってみれば、手にとる、いや手に余るほどである。

「どうしたのかなぁ?お兄さん達が怖いのかなぁ?」

髭をはやし、どう見ても30過ぎの親父がお兄さんとは…言葉は選んで言うものである。

それに、怖いはずがあるわけがない。

死線を幾度も潜り抜けた人物。

その人物が恐怖するもの。それは。

ゼロ、イグニス、ネスツ、そして…ダイアナの怒り。

「…その顔でお兄さんはないと思いますがねぇ。」

クーラが色々と考えている間に、もう一人男が増えていた。

全体的に青い服装。白髪。

まるで神父を思わせる雰囲気の男が、三人の男の後ろに立っていた。

「!?」

男達はいきなりの登場に驚き、身体を180度急回転させた。

そして、驚いたのは男達だけではなかった。

彼女もいきなりの登場に驚いているのである。

(この人、いつの間にあそこに!?)

そう。普通なら気配を読みとり、気づくのがKOF関係者ならいとも簡単なことである。

だが、この男からは気配を感じ取ることが全く出来なかったのである。

いくら考え事をしていても、気配を読める少女にとって、考えられない事が目の前で起こったのであった。

「それに、そのような小さな女の子に三人とは…恥ずかしいものですね。」

「な!?なんだとぉ!!」

神父の発言に血が上ったのか、男達は怒り狂い神父めがけて走り出した。

200ほどある男の右手から、握り拳が空を切って右から左に移動する。

「!?危ない!!」

彼女の発生と共に振りかぶられた右手。

拳の先は、空気だった。

男達の前に、神父の姿はなかった。

「…全く、恥ずかしいにも程があります。それに、無抵抗の人間に急に拳というのもいけませんね。」

声の発信源は、クーラの後ろからだった。

すぐさま振り向く四人。

そこには、先ほどまで男達の後ろに立っていた神父の姿があった。

(早い!?)

予測不能の事態に陥ったクーラ。

「…そのような行為をする人には、お仕置きが必要ですね。」

クーラと同じ真紅の瞳が男の眼から溢れんばかりの光を放っていた。

獣を狩る以上の、殺気を含みながら。

その眼にやられたのか、男達はその場にすくんだように彼女の目に写っている。

クーラは、違う意味でその場に立ちすくんでいた。

殺気の矛先は、男達だったからである。

一瞬目を離した隙だった。

もうクーラの前には残像だけが残っていた。男の姿は見当たらない。

まさか!?と振り向く先で見たもの、それは男達が地に沈んでいく姿であった。

「神罰です!!」

男は先ほど見せた技−技と呼べるものかは不明ではあるが−で男達に近づいていた。

そして、神父の声が聞こえた瞬間、両腕が凄まじい速度で彼らの身体を襲った。

地面からは、鎌鼬が何重にも重なって見え隠れしている。

「…………あ…………。」

男達から聞こえた声は、50音の最初の文字だけ。

それ以上は、何も発する事はできなかった。

三人いっぺんに頭を掴む神父。

持ち上げられた頭は、三つで一つの様にも見えるくらいだった

振り下ろされる両腕。

頭から落ちる三つの身体。

息は既にしていない。

全身が切り傷と地面との衝撃でボロボロになっていた。

男なのか女なのか、その区別すらできないくらい。

…全身が震える。

こんなもの、今まで見たこともなかった。

……こわい……

……コワイ……

……怖い……

人という生き物は、ここまで恐ろしい姿になるのか?

背中がぞっとする。

新たな恐怖に震えが止まらない。

「…怖いですか?」

神父は彼らの血で真っ赤に染まった手を拭いながら話しかけてきた。

「…………。」

返事はない。

恐怖で、声が出なくなっていたのだ。

「お子様には、ちょっと刺激が強すぎましたか。」

そう言い残し、その場を去っていく。

(あれが、Kの…。実に興味深いですね…。)

その場に残されたもの、それはズタズタに切り裂かれた三つの肉塊と、放心状態の少女一人。

……ち……

……チ……

……血……

錯乱しきっている。

突然の事態、そして、突然の出来事。

全てが嵐のように現れ、過ぎ去る。

突然とは、そんなものなのかもしれない。

この出会いも…。

これからの出会いも…。

「ク〜ラ〜!!!」

遠くから聞こえてくる女性の声。

少女を呼ぶ声。

声がどんどん近づいてくる。

その感覚すら、今の彼女にはわからなかった。

「!?これは!」

到着と同時に事態に気づく女性。

あまりにも無惨な死に方。

こんな状況をいきなり見せられたら、誰でも驚くのは当たり前である。

「クーラ!クーラ!!」

聞き覚えのある声。

恐怖と言う闇の中からうっすらと聞こえる。

………だれ……?

意識を徐々に取り戻していく。

だが、顔は真っ青のままだ。

「クーラ!大丈夫!?」

視界が回復してきていた。

少女の目に飛び込んだものは、ダイアナの姿だった。

「…だいあな?」

まだ意識がはっきりしていない、声が不安を感じさせている。

「一体何があったの!?」

答えようとした瞬間、目から涙が溢れてきた。

全ての意識が回復したからだろう、今までの経緯(いきさつ)を思い出してしまった。

ダイアナの胸に飛び込み泣き叫ぶクーラ。

涙は、とめどなく溢れていた。

「怖かった…怖かったよぉ!!」

涙は止まらなかった。

自分達の住んでいる、あの場所まで。

あの、窓が開け放たれた部屋まで…。


暗い夜の惨劇から、太陽が昇った。

クーラは元のクーラに戻っていた。

昨日の事を思い出しても、もう泣く事はなかった。

本日は晴天。

雲ひとつない空に、真っ赤な太陽がポツンと浮かんでいた。

部屋の窓が開いている。

その場所には、いつもの彼女がいる。

「…いい天気〜。」

背伸びをしながら、空を見上げる少女。

(…結局、あの人は何をしに来たんだろう…。)

昨日の事を思い出し、考える。

(助けに来たの?それとも…。)

テレビでは、昨日の出来事がニュースで報道されていた。

無惨に切り裂かれた男達。

タイトルにはそう書かれていた。

(…もう、勝手に外に出るのはやめよう…。)

もう、あんな出来事が起こるのは、御免と思ったのだ。

もう、あんな怖い思いは、たくさん…と。

(…楽しく、怖い一日だった。)

なぜ、あんな事をしたのか…。

事件の真相は、あの男にしかわからない。


クーラの、楽しく怖い一日は、死者三名を出して幕を閉じた。

そして、また昨日とは違う一日が始まろうとしていた。



クーラの一日〜前編〜
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