KOF AIS
血の呼び声 意外な訪問者
嫌な空模様だった。
一雨降るか降らないか…。
降らなければ、明るい笑顔が一面を覆う。
それをより効果的にする様に、沈みゆく陽が最期の灯火を、空、海、陸を朱く染める。
笑顔から楽しげな、活気溢れる声が出てくるだろう。
しかし逆に一度降り始めれば、重く息苦しい暗黒世界が生まれる。
止む事の無い雷雨。
神の怒りとも呼べる轟音が暗い空間に響きわたる。
その所業に恐怖する者。
それを通り越し、または感じず、疲労という息を漏らす者。
防具を持つ者。
身を守る物が、持つ者の感情を一層明白にさせる。
自然がゆっくりと時を刻む。
時間の経過と共に、上空に変化があらわれる。
進み続ける空−とき−は、ときに人々に悲しみを与える。
ここまで語れば結果は見えるだろう。
空中からの攻撃に羽を広げ、防御する者。
羽を持たない者は、捨て身の反撃を繰り出している。
無論、負けは明確である。
そんな者達の中に一人、何の抵抗も行わず、ただ道を行く者がいた。
赤く染まった髪は度重なるダメージで前に伏していた。
目の前が見えるのだろうか?
そう思わせる程に垂れていた。
流行とは離れた短ランを纏い、ズボンの両膝部分は何かで繋がれている。
これも歩行には邪魔だと思う。
しかしそんな事はお構いなしに、その者は歩き続けていた。
街中、ビル街という人気の多い場所で、その行動は人目に目立っていた。
信号に赤いランプが点灯する。
歩行者や乗り物は、青いランプが点かない限り、先には進めない。
この者も、例外ではない。
短い間の停止。
空は容赦なく攻撃を繰り返す。
全く同じ攻撃を…。
青いランプが点灯する。
再び歩き出すと、すぐ近くの路地裏に進行方向を変えた。
空き缶やら何に使ったかわからない物が無惨に捨てられている。
照明というものはほとんど無く、前後から入ってくる光だけがその場を照らしていた。
距離にして約2、30メートルといったところか。
真っ直ぐな線を描いているその道の中央で、男は再び歩を止めた。
信号があるわけではない。
「歩行者通行禁止」という看板も見当たらない。
工事中というわけでもない。
だが、その者は狭い道の中央で急に立ち止まった。
「…いい加減、出てきたらどうだ?」
男は何かの気配を感じ取っていたらしい。
それも今ではない。
路地裏に入る、その前からかもしれない。
気配の感じる方向にきびすを返す。
男の声に応じて、気配が見えざるものではなくなった。
道の入り口−彼の入ってきた所である−から、一人の女性が姿を現した。
年齢は彼より若く、まだ成人にもなってないというのが人目でわかる。
証拠は服装。
セーラー服を着た者が成人であるのは、ダブリでもしない限り着る事は珍しい。
いや、着る事自体は何かであるのかもしれない。
しかし、ここは街中。
人々が多く往来する場所である。
そこで成人者がわざわざ学生服…セーラー服を着るなんて事は一般的には有り得ない。
そう、己自身か、草薙京で無い限りは…。
雨に濡れたくなくて差している傘。
それは、尾行する際には顔を隠す道具に変身する。
彼女はその役割の変わった傘を差して、男の前に立っていた。
顔を、隠さずに。
「こそこそとすみませんでした。」
薄紫の髪の彼女が男に謝罪の言葉をかける。
もともと尾行する気はなかったようだ。
「…貴様、何の用だ?」
男は殺意に満ちた目で彼女を見た。
「邪魔するなら、殺す。」そう言わんばかりに。
「八神さんにお願いがありまして…。」
「お願いだと?…ふざけるな!!」
腕を下から上へ、手首のスナップをきかせながら振り上げる。
男の前から紫の炎が地を駆けていった。
向かう先は、勿論女のもとである。
勢い良く走り続ける炎が、すぐに女の目の前にまで迫っていた。
「え〜い!!」という声と共に、彼女は両手を前に出し、上下高さの違う構えをした。
その先には半円状の光が眩しく輝いていた。
シールドともいえるその物体に炎が接触する。
すると、炎が男の元に戻っていった。
男は帰ってきている炎を足元で消した。
同じ行動をとって。
「…チッ。」
「ご、ごめんなさい!その、やり返すつもりはなかったんですけど…。」
なぜか攻撃側より防御側の方が焦っていた。
攻撃をいとも容易く返してみせたというのに。
「お話をしに来たんです、八神さんに。」
「俺は貴様に用はない。」
「それじゃ、あまりにも彼女が可愛そうじゃないの〜。」
二人の会話に割って入ってくる声。
口調、声質から女性と判断できる。
「!?誰だ!!」
声は男の後ろから聞こえていた。
声のする方に振り返る。
女性が二人、堂々とした態度で立っていた。
服や髪が雨でビショビショに濡れていたが、彼等には二人が誰なのかすぐにわかった。
「話くらい聞いてあげてもいいんじゃないのかい?八神。」
「…貴様等…。」
「マチュアさん、バイスさん!」
マチュア、バイス…。
元々はルガールの秘書を勤めていたが、ルガールの死後八神とチームを組み、KOFに参加。
しかし、大会終了後暴走した八神に倒され、それ以降は消息不明となっていた。
その二人が今、八神とセーラー服の女子高生の前に現れた。
「今更ノコノコと…また殺されに来たか。」
「お〜、怖い。元チームメイトなのに。」
「仲間と思ったことなど一度もない。」
「…あ、あのぉ…。」
三人の空気に入っていけない女子高生。
それもそのはず、三人の中にあるのは極めて思い空気だった。
「ほら、彼女が困ってるじゃないの〜。」
「知らんな。俺はこいつに用はない。」
「私は大有りなんです!!…八神さん、一緒にチームを組んでいただけませんか?」
「…なんだと?」
意外な言葉だった。
彼女は毎年同僚の者達とチームを組んでいた。
同僚が参加できない時は、他の女性陣と手を組んでもいた。
しかし、今回は異性。しかもかなり凶暴な血に飢えた獣。
彼女の容姿と男が同チームとは、まさに美女と野獣である。
どんな才能ある画家でも描けない絵である。
「…俺とチームを組むだと?」
「あたし達もそのつもりで来たんだけどね。」
「なんだと?」
「今回の大会、4人1組って招待状には書いてあったからね。」
「ちょうどいいじゃない。この四人で組みましょう。」
「でも、あんたがこいつと組もうって言うなんて思わなかったね〜。」
「ちょっと、事情がありまして…。」
事情とは次の様なものだった。
今年もKOFの大会招待状が届いた。
大会形式は4人1組のチームトーナメント戦。
招待状の知らせをいつもの様に武術の師匠に教えに行った時の事だった。
いつもなら、「修行の成果を試す」という目的で大会の参加がおりる。
だが今回は違っていた。
「今回は参加する事はならん。」
いきなりな言葉だった。
師匠に問い詰めても、それ以外は何も言ってはくれなかった。
なぜ今回は不参加なのか?
それを考えていたら、ふと気を感じた。
それはとても邪悪なもので、さらにそれはとても近くに感じた。
その気の事を話してみると、「…そうか、感じたか。」としか言わなかったという。
以降は何を聞いても口を割ってくれず、時間だけが過ぎていた。
邪悪な気は一体なんなのか?
それが気になって、師匠や他の人には内緒で参加をするため、チームメイトを探していた。
「だから、お願いです。一緒にチームを組んでください!」
「…フン、くだらん。」
彼女の説明を何とも思わない様子で、男は歩き始めた。
「八神さんにはわからないんですか?この気の感じが…。」
そう言われた瞬間、八神の中で何かが動き出した。
足が止まる。
体の中で、何かが起きている。
それが何なのか…。
「……オロチ……。」
「…そうです。気の正体は、それじゃないかと。」
オロチは草薙家、八神家、神楽家で封印をした、化け物とも呼べる力を持つ者。
一度封印が解け、再び封印を施した。
そのはずだったのだが…彼女の感じる気はそれだという。
「…あなたと一緒なら、それがわかるのではないかと思って…。」
八神はまだ止まっていた。
微動だにしなかった。
八神が止まってから、どれだけの時が過ぎただろう。
実時間では長いのか短いのかわからない。
しかし、その場の空気は、時間を極端に長く感じさせていた。
「…いいだろう。」
やっと八神が動き出した。
腕や足や、そういった所ではなく、口であった。
「貴様等とチームを組んでやる。しかし、仲間だとは思わないことだ。」
そう言い残し、男は道から消えていった。
途中参加の二人も、いつの間にかいなくなっていた。
傘が空の様子を物語っていた。
彼女は一人そこに佇んでいた。
豪雨の中、類のない、異例のチームが結成された。