ふ た り
第三部 第三章
「女性は2つの顔を持っている」
この言葉を耳にした事はないでしょうか…。
表の顔と裏の顔。
女性はそれを相手によって使い分けていると思います。
勿論女性だけではありません。
男性もまた2つの顔を持っています。
いえ、2つ以上ある方もいらっしゃると思います。
でもそれは大きく分けると結局上の2つに辿り着きます。
正か負か…。
好きな相手には正を、嫌いな相手には負をぶつける。
それが人という生物だと思います。
…………………
……しかし……
…………………
例え好きでも負をぶつけてしまう…。
それはどういう事なのでしょうか…。
それは本当に好きと言っていいのでしょうか…。
嫌いではないのです。
決してそんな感情はないのです。
なのにどうして負をぶつけてしまうのか…。
これも人という生物の成す業なのでしょうか…。
…………………
……………
………
あの人が連れて行かれてどのくらい時間が経ったのだろう…。
きっとそんなには経っていないのでしょう。
でも私には、その僅かな時間が長く感じてしまう…。
カップラーメンの3分を待つかの様に。
あの人が一体何をしたというのだろうか…。
あの時のあの人は何もわからない表情をしていた…。
きっと何かの間違えで、警察があの人を連れて行ったのだ。
そうとしか考えられない。
………でも………
この胸に残るわだかまりは何だろう…
そうじゃないと言いたげな心…。
「そうじゃない」なら、何が「そう」なの?
本当にあの人が何かしたと言うの?
もしそうだとしても、そんな事私は認めたくない!
絶対に認めない!!
静かな空間に一人佇む女性がいた。
女性はその場からピクリとも動かずにそこに立っていた。
男が連れ去られてから、ずっと…。
時間にしてみればホンの5分くらいだろう。
だが彼女の空間だけは、まるで時が止まってしまったかの様に5分という時を刻んでいた。
静寂が虚しさを増し、それを加勢せんとばかりにカラスが空に鳴いていた。
10分が過ぎ、ようやく彼女に変化が見られた。
ゆっくり、ゆっくりと歩を後ろに進めていく。
抜け殻を引きずっている小さな生物は、拡大すればこういう風に見えるのだろうか…。
そこにいるのは人ではなかった。
人以外の生物が、必死に、だが力なく外殻を動かしていた。
ようやく目的地にたどり着いた時には、身も心も疲れ果てていた。
TVのリモコンに手を伸ばす。
通常の、新聞に載っている通り、番組は進行している。
事件のことは、特別ニュースに流れてはいなかった。
時間帯がニュースを放送する時じゃないからかもしれない。
夜になれば、この事が放送されるのかもしれない。
彼女はただ、TVの画面と睨み合いを続けていた。
……何時間も……。
そう、俺は二人いるんだ…。
気づいたら、それはいたんだ…。
暗闇の中、手を伸ばせば触れられそうな場所に…。
…やっと思い出せたみたいだな。
何も見えず、何も肌で感じ取れない空間で、男は確信した。
…二重人格という、常人には考えられない自分を。
常に人並みで、仕事でも友人関係でも、それは常に一定の距離を保てていた。
だがしかし、今均衡が崩れてしまった。
制御という壁が、あるモノの手によって破壊されたのだ。
驚きを隠せない男に、闇から出てきた男が声をかけた。
他の事は気づくのに、自分の事に関しては鈍いんだな。
いや、わざと気づかない振りをしていた、と言った方がよかったかな?
………黙れ!!
声をかけられた男が、向かいに怒鳴りかけた。
男の気に触れる事を、そいつは言ったのだろう。
お前…お前が何かやったのか!?
それ以外に、誰がこういう事態を引き起こせると言うのだ?
人の体で……勝手な事を!!
人の体?それは違うな。これはお前の体であって、俺の体でもある。
俺の体を俺がどう動かそうと、どう行動しようとそれは俺の勝手だ。
うるさい!!一体…一体何をした!!
何って、ただのゲームだが?
ゲームだと?それでなぜ警察が俺のところに来る!!
そりゃあ、法に触れる事をすりゃ、警察も飛んでくるだろうさ。
だから、それは何なんだ!!
デパート破壊ゲーム。
!!?
男はそれを聞いて唖然とした。
無理もない、並大抵の考えではないのだ。
デパートを破壊、それだけでも恐ろしいものだ。
さらにデパートには、大量の人間もそこには存在する。
デパートが破壊されるという事は、その人達にも危害が加わるという事になる。
そんな恐ろしい事を、彼はやってのけたと言うのだ。
誰が聞いても、それは背筋の凍る出来事だろう。
結構派手に散ったみたいだ、さぞ綺麗な像が出来上がってたんじゃないか?
あ〜、周りの人間も一緒に散ったとTVでは言ってたなぁ。
き、きさまぁ!!自分が何をやったのか、わかって言っているのか!
殺人…それも無差別殺人だ!それがどれ程の事か、お前はわかってやったのか!!
わからないでやる人間が、この世にいるのか?
向かいの男…もう一人の優樹は、からかう様に優樹の言葉に反応していた。
貴様………出て行け!俺の中から出て行け!!
再び男の混乱が始まった。
自分の中のモノが、勝手な行動をし、自分を苦しめている。
そんなモノがあったら、誰でもそう言いたくはなる。
はなたれた側は、平然としている。
自分の行動の意味はわかっている。
しかし、何の悔いも、間違いもしていない。
そう、男からは感じられた。
……さて、紹介はここで終わりだ。
……紹介、だと?
男は意味が全くわからなかった。
お客人が待ってるぜ?
男は更に意味がわからないという顔をしていた。
ここは真っ暗な場所。
二人以外人っ子一人いない、暗黒世界。
そこのどこに客がいるというのか、優樹はあたりを見回した。
…しかし、どれだけあたりを見回しても、向かいの自分自身の姿と、それ以外の黒い景色以外は何も映らない。
……じゃあな、また後で会おうや。
男はそう言い残し、闇の中へ消えていった。
一人とり残された男は、もう何が何なのかわからなかった。
さっきの男が、もう一人の人物だったのか?
俺の中の、もう一人の…。
…………さん。
………海さん。
………双海さん!!
突然の声に、驚いて顔を上げる。
そこには、こちらの態度に怒りをあげる白髪の男が、小さな机越しに座っていた。
こちらを睨んでいる。
その眼に恐怖を覚え、不意に目をそらした。
…………………
……………
………
…???
ここは、一体?
少しの間の後、男は我に帰った。
先程までの一色画より、断然数の多い色がそこにあった。
もう一度、恐る恐る机の男の顔を見た。
やはりこちらを見ている。かなりご機嫌斜めな様子だ。
再度目をそらす。
その顔には見覚えがあった。
男の家に押し入って、威圧をかけてきた警察官の一人だ。
その後方には、もう一人の若輩もいた。
…ここは、取調室?
今までの事を振り返れば、ここがどこなのかは大体検討はついた。
そう、今は取り調べの真っ最中なのだ。
……じゃあ、先程の暗い所は、一体…。
考えれば考えるほどわからない暗黒世界の時間。
そして、そこでの出来事…。
…話を聞いているんですか、双海さん?
…あ、は、はぁ。
まだ状況が把握しきれていない情報の枠に、白髪の警察官はパズルの欠片を詰め込んでいった。
組みあげるパズルの絵。
題目
「デパート爆破無差別殺人事件」
双海優樹被告の取り調べが始まった。