ふ た り
第三部  第二章














「…何とも情けない面になったものだな」







































目の前に立つ男は、俺に向かい合うとそう言い放った







































……笑っている……







































……俺の姿に笑っているのか……







































……それとも他の何かで笑っているのか……







































……ただ、その笑顔には……







































とてつもない悪意がこめられているのだけは確かだった







































「……お……おまえ、は……」

「見て驚いたか?…クックック…まぁ無理もないか。

まさか声の主が自分自身だったなんて、想像すらつかんだろうからな。」








































…そう、この暗闇から聞こえた声の主。それは間違いなく俺自身の姿。

見間違える事の無いその姿は、暗黒の中からゆっくりと俺の前に姿を現したのだ。







































…暗闇という言葉に疑問を抱く者がいるだろう…

それを説明しておいた方がいいかもしれない。







































そもそもなぜ俺が暗闇の中にいるのか…。

はっきり言おう。それは俺にもわからない。

気がついた時には、すでに暗かったのだ。

目を閉じているのか、それとも開けているのか…

それすらわからないほど暗かったのだ。

それから俺は、意識を瞼に集中させた。

自分の瞼は閉ざされたままであった。

暗いのは当然であった。

…しかし、瞼をゆっくりと開けても、暗さは変わらなかった。

自分の姿すら見えない、黒く染まりきった世界がそこにあった。

…人生でこれまで、こんな暗い所にいた事があっただろうか…

何かの出来事で暗くなった事はあった。

だがそれは一瞬の出来事だ。

時の歯車が回り出すと、俺の脳は眠りにつく。

目覚めた時は、眩しいほどの光が視界が閉ざされようとも入ってくる。

そこでもう、暗さはなくなってしまう。

あくまでも一瞬……長くは続かない。

その筈なのに……それは長く、意識的に起こっていると言っていい。

非現実的……言葉にすればそうだろう。

でも、今は現実に起こっている事(だと俺は思っている)。

でも、本当にこれが現実と呼べるのだろうか?

俺の思いは間違っているのではないか?

不安が頭をよぎっていた。

現実的とは非なる出来事。

それが「非現実的」である。

非現実的」な事が、短い間隔で続けて起きるものなのか?

……まず有り得ない。

余程運でも悪くない限り起こりえない。

…今日の俺はそこまで運が悪いのか?

…俺は、「非現実的」な事象の中に元からいたのか?

…そんな事を考えているうちに、声が聞こえてきた。

俺に話しかける声。

姿形は全くもってわからない。

なんせ、暗いのだから。

そして、幾つかの会話(と呼べるのか正直わからないが)を経て、今に至っている。







































……しかし……しかしだ……







































顔つき、体つき、服装まで全てが俺と同じ。

笑いという、喜怒哀楽の「楽」という感覚…表情を除いて。

整形等で顔や肉体の類似は、サンプルさえあれば不可能ではない。

服装も事前に確認しておけば可能だ。

だが、ここまでするものが世界中にどれだけいるだろうか…

…ここまでする理由…

俺の追っかけ?

いや違う。そんな事あるはずが無い。

誰かに見られてるなんて事、ありはしなかった。

ならば、俺になりたかった?

それ以外俺には思いつかない。

でも俺になって何の利点がある?



「そんな陳腐な理由で、こんな姿なわけないだろう。」



偽者が笑いながら口を開いた。

それも、俺の考えを返す言葉で。

…やはり「非現実的」だ。

もう「非現実的」なことの連続で、驚くことすら忘れているからか、心を見透かされても大して驚きはなかった。

やはり俺は「非現実的」な所の中にいる。

間違いない。俺は何かの拍子でこんな所に…暗く重い世界に放り込まれたんだ。

なら、何の拍子だ?

俺には思い浮かばない。

いや、思い浮かべようとしても、前の事が出てこない。

此処に来る前、一体何があったのか…



「…なぜ、俺はここにいる?」



反射的に聞いていた。

無意識の中で、口を開いていた。



「…へぇ、あんた、何にもわからないのか?」



全てを知っている口調。

この男は一体何者なのだ?

なぜ俺の姿をしている?



「なぜってかい?そりゃ当たり前だろ。俺は「あんた」なんだからな。」



お前が俺?何を訳の分からない事を言っている。

俺が二人といるわけがないだろう。

それに俺はそんなに悪人ぶった態度などとらない。



「…は〜ぁ、ま〜だわかってないのか…呆れた奴だ。」



わかる?何をわかれと言うのだ?

この状況か?

この状況はそもそもなんだ?

こいつのせいなのか?

こんな世界に連れ込んだのはお前なのか?

…ダメだ、全然わからない。

何もかもわからない。



「この世界に連れ込んだのも、俺があんたなのも、それは全てあんたが作ったことだろう?」



……俺が、自分で此処に来た?



……俺が、自分で自分を作った?



「鈍いにも程がある。面倒だが教えてやるよ。」







































……あんた、もう一人いるだろう?







































!!?







































…………







































……そうだ……







































……俺は、二人いる……







































その言葉が、全ての謎の糸を、一つの線へと結びつけた。













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