ふ た り
第三部 第一章
…本当に、どうなってしまったんだ…
これは、夢なのか?
否、夢なものか!
これは現実
今起きていることは実際に起きている事
………
…しかし…
俺には全く覚えがない…
なのに、どうして…
負の感情しか出てこない
喜怒哀楽で言えば、「哀」
いや、それすらをも凌駕するこの感情
言葉で言い表すには難しい
今の俺の姿はどういう姿なのだろうか
絶望に満ちた姿…
…そうだろう
そうに決まっている
当たり前のことだろう
…本当にそうかな?
……!?
何だ、今のは?
何処からともなく聞こえてきた声
声と言って良いのかもわからない
だが、確かに聞こえた
「…本当にそうかな?」
どういうことだ?
…本当に、そうかな?
それ以外になにがある!?
絶望よりも遠い暗い表情
悲しみを超越した姿以外に考えられるものか!
…本当にそう思うのか?
………!?
やはり、聞こえる!!
一体なんなんだ!!
お前の目は節穴か?
よ〜く目を開けて見てみろよ…
…目?
そういえば、考えにふけっていたからか、何も目に映っていなかった
それどころか、目を開けていたのかさえ忘れていた
全神経を脳から瞳へと移動していく
行動を確認し、実行するのには時間はかからなかった
瞬く間に感覚は脳から閉ざされた(自分では自覚はないが)瞳へ動いていった
ゆっくりと瞼を開いていく
見えたもの、それは顔の表情や身体の容姿(かたち)、ありとあらゆるものが見えない真っ暗なトコロだった
念の為、自分の姿を確認する
だがしかし、それすらも見る事はできなかった
自分自身の意思では見る事も、感じ取る事ができない場所
…目を開けて見てみろ?
無理な話だ
何も見えず、何も感じ取れない俺には、到底無茶な話である
これでは目を開けていないのと同じ事
そんな中をよ〜く凝らすなんて馬鹿げている
見えないって?
お前は本当にバカな男だな
…なんだと?
見えてるだろうが、バカ
何処見て言ってるんだよ、バカ
ちゃんと探せよ、バカ
…バカバカと連呼する声
腹立たしい事この上ない
今の俺の状況を理解しているのか?
声の主の方がバカだ
俺はそう思っていた
むしろ、そうしか思えなかった
…しかたねぇなぁ…
全くバカの相手は疲れるな
そう言った後、声は止んだ
ムカつきが最高潮にまで達していた
よく理解もしないで、あ〜だこ〜だと言う奴がいる
ならば貴様はこの状況で言った事ができるのか?
それだけ言うのであれば、出来るに決まっている
だから言うのだ
しかし、実際に同じ事が起きれば、それはただのフカシ
言った事もろくに出来ず、自分の評価を落としていく
今俺は、そういう奴と話をしているんだ
いや、話というより、一方的な発言
…そう、思った
おらぁ、何処向いてんだよ、バカ
短い沈黙だった
時間にしてカップラーメンが出来る三分の一くらいだろうか
それよりも早いかもしれない
とにかく、約1分の短い静寂であった
聞こえてるんだから、探すくらいしろ、バカ
わかってんのに何もしやがらねぇ
だからバカって言ってるんだよ
まだバカと連呼し続ける声
本当に腹が立つ
いいか、俺がわかりやすく説明してやる
その通りに動け
ついには命令か…
何だというのだ、この声は
こうなったら命令通りに動く
そこで見つけたら、一発…いや何度でもガツンと言ってやる
腹の底から湧き上がる怒り
堪忍袋の緒が切れた、とはこの事なんだなと思いながら、場所なき声に耳を傾けた
いいか?一度しか言わないからよ〜く聞けよ
今お前は真っ暗なトコロに一人ポツ〜ンと寂しく立っている
その状況から、まず右足を一歩後ろに退け
ムカつく感情を抑えながら、命令口調をただただ聞きながら動いていた
神経は…もちろんそんな物はこの際どうでもよかった
とりあえず見つける
それが今の最重要事項なのだ
それから身体を180度回転させろ
そして最期に右足を元の位置に戻せ
こんな簡単な事、もう言わせんじゃねぇぞ、バカ
とうとう声の主を拝み、吠え倒せる
言われた通りに身体を180度回転させる
身体が後ろを向いた
その瞬間、俺は言葉を失った
最後の工程など、消えていた
それだけではない、全ての感覚、視覚以外の全ての感覚が、一瞬で消え去っていた
目の前にいた人物、それは……
……………
……30年間の……
……集大成だった……