ふ た り
第二部  第三章









































私は馬鹿だ…

























考えが甘かった…

























何故あの時に気付かなかったんだろう…

























気が付いていれば、こんな事にはならなかった…

























もう、手遅れだ…

























苦しむのは私一人で充分だ…








































コンクリートから熱気が感じられる。

季節には相応しくない暑さ。

この時期の気温とはとても思えない。

しかし、今の男にはそんな事はどうでもよかった。

今はただ、安らげる場所がほしかった。

某駅を出て、ゆっくり歩を進める。

許可さえ出れば、今すぐにでもその場に伏せるだろう。

重力という名の見えざる敵に屈服せざるを得ない。

足腰に力が入らない…。

フラフラな足取りを女が隣でサポートに入る。

勿論、男の全体重を支えられるだけのパワーを持っているわけが無い。

沈没しそうな船を沖に停泊させるまでの時間を、何とか持ちこたえている状態だった。





「…もう、だから無理は止した方がいいって言ったのに…」





女が呆れた感じで、しかし疲れが息を余計に消費している。

言葉全体が無声音になりかけていた。





「……ちょっと、やりすぎたか……」





肩で呼吸する男は、最後の力を振り絞っていた。

男にも意地がある。

このまま沈ませるわけにはいかない…。

ここで沈めば、男だけでなく女にも危害が加わる。

それだけは避けなければ…

朦朧とする意識の中での決断は、やがて決して諦めなかった者へ祝福を与えるのだった。

通い慣れた道。

その筈なのに、今日に限っては入り乱れた迷宮のようであった。

普段ならばものの5分程度で家に到着する。

迷宮の設定もきっと「EASY MODE」になっているに違いない。

もし「HARD MODE」に変更されていた場合、時間はそれの3倍になる…。

そんな厳しいハードルを、今二人はクリアしようとしていた。

船が、その身を海に飲まれる前に…。




































…お前には、酷い事をしたな…

























…許してくれとは言わない…

























許しが出るとは、思っていないから…

























でも、これだけは言わせてくれ…

























……すまなかった……

























もう二度と、会う事も無い…

























……………

























……さようなら……





































「まったく、これじゃ何をしに行ったのかわからないわね…」

「……そうだな……」






横たわる男と、隣で肘をつきながら座る女。

目の前には一杯の水が入ったグラスが2つ置かれていた。

船は、沈んでいった。

その身に大海を纏い、翼を折りたたみながら…。

グラスに映る風景。

そこは、真っ白な背景に棚がバランスよく映っている。

素人が見ても、素晴らしい作品に仕上がっていると思うだろう。

明後日の方向を見つめる。

天上が、この空間の広さを物語っていた。

疲労という鎖に縛りつけられながらも、必死に抵抗する。

やっと少しは楽になったのか、男はソファーから起きあがった。

沈没船が、復活した。





「もうこんな無茶は懲り懲りだな。」

「そうよ、ああいう乗り物はもう禁止ですからね!」






船は最初のうちは、順調に進んでいた。

しかし、ある出来事から船体は大きく不安のベクトルに傾いていった。

最近のテーマパークというのは、絶叫マシンが客を呼んでいるのだろうか。

「絶叫」「怖い」そういった名を持つ者に、人は皆引き寄せられていた。

二人もその一員であった。





「やめなよ!あなたはああいうのダメでしょ!!」

「たまにはいいだろう、久しぶりに来ているんだし。」






はじめ女は男が一員になることを反対した。

一員になれば、弱点をピンポイントに突かれる。

それがわかっていたからだ。

それでも男は参加すると言った。

こうなるとどうしようもない。

仕方なく参加を認め、女自身も入る事になった。

それが、沈没へのカウントダウンだった。

時間が経過するにつれ、参加者達も少なくなっていった。

途中退場したのか、大海に飲まれたのか、そこは定かではないが一人、また一人といなくなっていった。

今までの様子から伺って、男がどちらだったのかは言うまでもないことだろう。

やっと、男の求める安らぎが手に入ったのだ。




































ピーンポーン!!




































静寂を壊す、一つの音。

その音の反応して、女は席を立った。

男は相変わらず安らぎの中にいた。

玄関から声が聞こえる。

小声で話しているのか、何を喋っているか聞き取れない。

だが、女の叫び声で、男はその場を離れる事にした。





「あの人がそんな事するわけありません!」

「しかし奥さん、証拠が出てきた以上、彼を放っておくわけにはいかないんです。」

「…?どうかしたのか、恵美?」






彼女が叫ぶのは、何かあったのだろう。

そう思い、男も玄関に移動していた。

そこには、ありえない気温にも関わらずコートを羽織っている二人組の男が立っていた。

一人は40後半、50あるかもしれない年齢の白髪の男。

それの後ろに若い男。

年齢、立場的には白髪の部下と推定できる。





「…双海、優樹さんですね。」

「…?はい、そうですが…」

「警察のものです。署まで御同行願います。」






逮捕令状を見せつけ、白髪の男が語った。

その目は、男に威圧をかける、鋭い眼光だった。





「ちょっ、ちょっと待ってください!一体なんなんですか?」

「…シラをきるつもりですか?」






若輩の男も、先輩に劣らずの気を漂わせていた。





「シラ?シラって一体…」

「詳しくは署で話を聞きましょう。おとなしく着いて来てください。」






警察は圧倒的な力で彼の発言を圧倒した。

何が何なのかわからない彼は、ただただ…二人の男の言いなりになるしかなかった…。




































あなた!!




































女の呼ぶ声に振り向くも、視線は地獄へと向けられていた。




































双海 優樹  30歳




































無差別殺人の容疑で逮捕される。




































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