ふ た り
第二部 第一章
…めろ…
…やめろ…
…お前は俺…
俺はお前なんだよ
…違う…
違う!!
叫びにも近い大声を、暗い闇の中で発していた。
その自分に驚いてか、勢い良く布団から身体を起こした。
冷や汗とも言える水滴が体中に張り付き、最悪な目覚め方だ。
「……夢、か……」
そう呟くと、辺りの景色に気が付いた。
周りを見渡すと、そこは闇の空間だった。
窓から差し込む月の明かりが、唯一の希望の光だった。
男は左腕につけられた腕時計を見て、闇の世界にいる理由を知った。
「こんな時間まで眠っていたのか…」
起こした身体がだるい。
寝覚めの悪さが身体を重くしている。
重力に逆らいながら、大きく身体を上に伸ばす。
まだ重い…気休め程度にしかならない伸びをしながら、ベッドから身体を離す。
扉に向かい、電気のスイッチを探す。
月の光が入っているものの、その明るさは皆無に等しい。
壁に手を這わせ、ようやく探し出す。
部屋に本来の明るさが戻る。
颯爽とカーテンを閉めに窓に向かう。
「…ん?」
ふと自分の足に違和感を感じた。
普段起き上がる時とは違う感覚。
「……!?」
足を見ようと下を見た瞬間、違和感の原因がはっきりとわかった。
俺はお前
お前は俺なんだよ
な!?
ありえない姿に驚愕の声が口からこぼれた。
…なんで…
…俺は眠っていたんだ…
なのに何故、こんな姿を…
突然の事態に頭の中が真っ白になる。
何も見えない。
何も聞こえない。
身体が、頭が、五感が全てなくなっていく。
何もかも感じない、虚無の空間。
…一体、なにが…
…混乱なんてしてる場合じゃない!
何でこんな姿になってるのか確かめないと!
急ぎ足で部屋を飛び出す。
焦りが身体を火照らせる。
…何がおきた?
一体何が起きたんだ!!
一階に向け、階段を降りる。
足音が家中に響き渡る。
隼の如き速さで一階に降り立った。
「めぐみ!?」
突然の大声に驚いたのか、晩ご飯の準備をしていた女が、菜箸を手から落としていた。
「…な、なぁに?そんなに大声あげて。」
めぐみと呼ばれた女性は、何が何だか分からない状態で言葉を返してきた。
「………」
彼女の落ち着きぶりを見て、男は呆然と立ち尽くすだけだった。
その顔は、恐怖しているようにも感じられた。
「…何か、特別な事、あったか?」
同じ屋根の下に寝泊りする者にかける言葉ではない。
頭の中ではわかっている。
しかし、そう言わないと、自分の気がすまないのだ。
この異変の正体を、解くまでは…。
「特別な事?…あなた、寝ぼけてるの?」
溜息交じりの台詞。
…寝ぼけている。
そう言われてもしょうがない。
事実本当に寝起きで言ったことである。
彼女は異変に気づいていないようだ。
「…あ、あぁ。俺、何か変な事言ったか?」
「ええ、言いましたよ。とてつもなく変な事。」
…本当に、何もなかったのだろうか…。
今の俺は、彼女の目にどういう風に写っているのだろう…。
ただの寝ぼけ男としか見えないのだろうか…。
恐怖と不安が混じりあう、とても嫌な感覚。
それには、吐き気すら感じられる。
「寝起きじゃ、あまり重たいものは食べれない?ちょうどご飯が出来たんだけど…。」
「…いや、大丈夫だよ。すぐに食べる。」
そう言うと彼女は、ご馳走がのる食器を居間のテーブルまで運んでいく。
………
…一体、何だというのだろう…
俺のこの服装…
確かに、何か異変が起こっているはずなんだ…
なのに…
テーブルは、色鮮やかに塗りつぶされていた。
「できあがり。冷めないうちに召し上がれ!」
無邪気な笑顔が食卓をより良く輝かせる。
「…いただきます。」
心のわだかまりを残しながら、優樹はめぐみの作った料理を口にした。