ふ た り
第三章












「正午頃、あのデパートであなたを見たという人がいるのですが…」



男と対峙する様に座っている警察官二人。

身体を動かすたびにギシギシとソファーが音を立てて揺れている。

両者の間にはテーブルが一つ置かれている。

その上には、テレビのリモコンと珈琲カップが三つ、市販されているミルクと角砂糖。

珈琲は苦く渋い匂いを部屋中に放出している。

味も香りと同じ、それを中和するためのミルクと砂糖。

テレビのリモコンは、ただ静かにそこに横たわっていた。

まるで、一つのオブジェ、置物の様に。



「正午頃ですか?」



男は眉間にしわを寄せながら、警察の問いに答えた。



「今日は一日中家の中にいましたが…」



男の発言に驚きの色は無い。

手馴れた技といったところだろうか、常に冷静に対処してくる。



「家で何を?」

「ずっとテレビを見ていました。せっかくの休日ですからね、ゆっくり休みたくて。」

「それを証明してくれる人は?」

「…いませんね、家には見てのとおり一人ですから。」

「表札に女性の名前がありましたね。」

「あぁ、それは女房です。」

「奥さんはどちらに?」

「友達と一緒に出かけると言って、出かけました。」



刑事ドラマの様な質問を幾つかした後、二人は顔を見合わせた。



証拠がないんじゃなぁ…

しかし、目撃証言だけで連行する事も出来ませんし…

あそこにいたという証拠がはっきり残っていればよかったんだがな…

あの爆発じゃ無理ですよ



二人は目で会話をしていた。

お互い言いたい事はほぼ同じのようである。

数分間の沈黙。

警察の言葉を待つ男は、珈琲カップを手に取り口に運んでいた。

部屋には珈琲カップを置く音、ソファーの動く音だけが響いていた。



「念のため再度確認させていただきますが、本当にあのデパートには?」

「えぇ、今日は部屋にいましたよ。」

「…そうですか。」

「刑事さん、俺を疑っているんですか?」

「…まぁ、一応目撃証言がありましたし、ここにいたという証拠もありませんからね…。」

「しかし、俺があそこにいたという証拠もないじゃありませんか?あの様子じゃ残る方が奇跡ってもんでしょうし。」



警察の表情がこわばった。

何かを感じ取ったのだろうか。

男を疑う気配がより一層深まった。



「事件の事を知っているようですが?」

「あぁ、テレビで見ていたものでして。生存者がいないと…」

「…そうです。テレビでは200人と発表していますが、それは現時点で見つかった遺体の数です。」

「まだ死者の数は増えるでしょう、見ての通りの有様ですから。」



これには二人もお手上げか、期待を裏切られた二人はため息をついた。

神経を張り詰めすぎたのだろう、珈琲カップに手が伸びる。

ベテランと見える警察官はミルク一つに角砂糖を一個。

まだ新米だろうと思う警察官はブラックで、二人同時にカップの中身を減らしていく。



これは、無駄骨だったかな…

…かもしれませんね…



ちらりと目で合図をする二人。

先程のこわばった表情はなく、むしろ悲しくも思えた。



「…わかりました。では、この辺で引き上げさせていただきます。」

「ご協力有難うございました。」



二人の警官は立ち上がり、一礼をして早々にコートを羽織った。

男もそれに続き礼をする。

玄関までの道が長く感じた。

二人の背中から、マイナスのオーラが発生している。





































結局二人には収穫はなかった。



無駄足を踏んだ。



そもそも目撃証言が嘘だったのだろうか…



それとも、この男が嘘をついているのか…



闇の中の手探り。



今の状況では何も解決はしない。



証拠が何もないのだから…



動機がはっきりしていないのだから…



右も左も分からない、赤子状態。



それでも、調べなければならない。



死んでいった者達の為に。



亡くなった者の家族の為に。



足並が重い。






































「それでは、失礼します。」



口調は淡々としていた。

ガクリとした態度ももう無くなり、訪問時と同じ状態を保っていた。

寒気が流れ込んでくる。外はもうすっかり冷え込んでしまっているようだ。

コートやジャンパーなどの上着を身に付けていない男には、とても耐えきれない寒さである。

扉を閉める男。

警察がいなくなった空間には、冷めた珈琲がポツンと取り残されていた。

扉の鍵をかける。

その男の表情は、笑っていた。



「…今で200、か…」



ボソボソと小さく低い声を発する。



「…どこまで増えるのかな…」



男の視線は窓に焦点が合っていた。

微笑んだ姿が、窓に映し出されている。

瞬きをしながら、振り返る。足は二階の階段に矛先を向けている。





































…………さぁ…………





































楽しい時間の始まりだ





































二階には部屋が二つある。その片方の扉を開け、中に入る。

そこには小さなテーブルとパソコン、プリンター、収納棚、そしてベッドが置かれている。

窓は外の薄暗い明かりを部屋にもたらした。

ベッドに横たわる男。

男はそのまま、深い闇の世界へと旅立った。








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