ふ た り
第一章






己の中にいるもう一つ、いやそれ以上の存在に、気づいているだろうか…。

その者の行動に気づいていれば、手遅れにならなかったと思うことはないだろうか…。

「後悔」…人間は後悔を繰り返す。そしてそれを今後の発展のために改め、次なる道を開く。

しかし、必ずしもそれが明るい未来を作り出すわけではない。

手遅れだと悔やんだ時にはもうそこは、薄暗い、外界から遮断された世界が待っているとしたら…。



あなたは、どうしますか?



大切なもの達を、どうしますか?





休みの日というのは、街中が賑わうものである。

排気ガスの漂う外の世界は、めまいを起こし混乱しそうなくらい人が群がっている。

外だけではない。屋内においてもこれは言える。

むしろ、屋内の方が酷い有様の時がある。

デパートが良い例だと考えよう。

ぎりぎり二人すれ違うことのできる道を、人間が埋め尽くす。足の置き場も無いくらいに。

そうなると、怪しい人物がいても気づかれはしないだろう。

例えばスリ。人が密集しているから誰がやったのか気づかれないだろうと思い、他人様の持ち物に手を伸ばす。

それがそもそも後悔の始まりだということに気づきもしないで。








デパートの二階に、ある男が訪れた。

身の丈はそこまで高いというわけでもなく、歳は30近いくらいに見える。

黒いコートに黒いカバン。冬のサラリーマンを思わせる姿だ。

人を掻き分け、急ぎ足である場所に向かっている。

普段なら1分もかからず簡単に行く事の出来る道を、その時に限っては5分もかかってしまった。

やっとの思いで到着した男は、奥の扉めがけて走り出した。

左手にある洗面所の鏡に、その急ぐ様がはっきり映し出されていた。

誰も居ないことを確認して、勢いよく他人との接触を断つ。

その場所には、とても臭いそうな白い物体が一つ、そしてロール状の紙が二つ置いてあるだけだった。

男はおもむろに下半身に纏っているものを下ろし、白い物体の上に座る。

「……ふぅ……。」

一息ついて、男の顔が安堵の色に変わる。

右手でロール状の紙を取り、それを下の方に持っていく。

用を済ませたらしく、男は元の格好に戻り洗面所の前に立つ。

鏡には、先ほどの髭の無いごくごく普通の30前後の顔が一つ映し出されていた。

ただ、さっきと違うもの。それは、急いた気持ちと黒い物体であった。

周りを見渡しても、その者以外この場所には何もないようだ。

男は蛇口から出ている水に手を浸し、ほんの少し間をおいた後に手を引っ込める。

濡れた手には、深い切り傷の痕がくっきり残っている。

前にどこかで大きな怪我でもしたのだろう、水にあてても痛くはないようだ。

濡れた手を近くにあったタオルで拭き、その場所を後にした。

つい10分程前の光景が再びよみがえる。

活気のある屋内。耳障りなくらい騒がしい屋内。

男はまたも人の波を掻き分けながら、下のフロアを目指した。

「喫煙所」と書かれた札がぶら下がっている所で、男は立ち止まった。

胸の裏ポケットにしまっておいたのだろう、四角い箱のセブンスターが外界に姿を現す。

箱から細く小さく白い円柱上のモノを一本取り出し、セブンスターと一緒に出した着火装置で火をつける。

一呼吸する度に、口内から薄白い煙がたちこめる。

よく見ると、その場所だけ他とは違い、モヤがかかっている。

男と同じ行動をとる者の置き土産だろう。

最後の一吸いをして、その場から立ち去る。吸い始めておよそ五分くらいだ。

男はそのまま外の世界に身を潜めた。






数時間後


そのデパートは瓦礫と化した。




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